認知症の方の歯科治療、有病者の歯科治療を主に行っています 長崎市布巻町にある三和中央病院内の歯科診療室です 

 

 

 

 摂食機能障害とは、読んで字の如く、ものを食べる機能、飲み込む機能に障害があることを意味します。

 みなさんは何気なく食事を摂っていると思いますが、食べ物を見てから胃に流れ込むまで一連の作業には、様々な神経や筋肉が総動員されているのです。その一連の作業に携わる部位が一部でも障害を受けると、摂食・嚥下が困難な状態となります。

 特に高齢者の方では、歯牙の喪失や筋力の低下、脳血管障害などにより摂食嚥下障害を有する方がいらっしゃいます。

 

 

 

 嚥下という一連の動作を3次元的に理解するのは意外と難しいことです。そのためには、まず口腔領域の解剖について知っておかなければなりません。

 

 上あごと下あごにはそれぞれ上顎骨、下顎骨という骨があります。口の天井部分を口蓋といい、骨の裏打ちがある前方部分を硬口蓋、後方の軟組織部分を軟口蓋といいます。

 口腔の奥には咽頭と呼ばれる部位があり、鼻腔寄りからそれぞれ上咽頭、中咽頭、下咽頭といいます。

 舌の下の方には、舌と筋肉で繋がった舌骨という骨があります。

 舌のさらに奥、気管の入り口の上の方には喉頭蓋というフタのような組織があり、これが嚥下する際には重要な役割を果たします。

 

1.先行期(認知期)

 

 まず目で見て、匂いをかいで、この食物を食べたい、と認識するステージです。

 

2.準備期(咀嚼期)

 

 実際に食べ物を口の中に入れ、咀嚼して唾液と混ぜ合わせ、食べ物を飲み込みやすくする作業を行うステージです。ここでは単に上下の歯でかみ合わせるのみでなく、舌で食べ物を左右に振り分けながら食べやすく食塊を形成します。

 私達歯科の役割は主にこの準備期における障害を改善、予防することにあります。

3.口腔期

 

 舌の動きにより食べ物を喉の方へ送り込もうとするステージです。ごっくんとするときに、舌の動きを自分で感じてみてください。きっと飲み込もうとする瞬間に、舌が上に上がって口の中の天井(口蓋)にピタッとくっつくはずです。

 

4.咽頭期

 

 実際に食べ物が喉の奥の方を通るステージです。喉の奥には食道の入り口(食道口)と気管の入り口がありますが、食べ物が通る際には喉頭蓋というフタのようなもので気管の入り口が閉じられます。呼吸する際には気管に空気を通すためにこのフタは開いていますが、食べ物が通る際には肺へ落ちないようにフタをするわけです。口腔期に舌が上に上がると述べましたが、この際舌の下の方にある舌骨という骨も上に上がり、それに引っ張られて喉頭も上に上がります。これで相対的に喉頭蓋というフタが閉じるわけです。また、口と鼻が繋がっている部分も、口の天井の奥の部分と喉の奥側の壁が接触することにより閉鎖されます。

 ふだん呼吸をしている際には、食道の入り口は気管の入り口で後方へ押しやられており、食道の入り口は閉じられているわけです。喉頭蓋というフタが閉じて気管にフタをし、喉頭が上に上がることによって食道の入り口が開き、食物が通過します。

 

5.食道期

 

 食べ物が食道を通るステージです。

 

 

 嚥下について3次元的に理解するのは最初は非常に難しいと思います。

 

 

 

各ステージでは様々な神経や筋が働いており、各々障害があると摂食嚥下が困難になります

 

1.先行期(認知期)

 

 認識障害があると、食べ物に対して興味を示さなくなります。認知の問題や、精神的な原因もあります。

 

2.準備期(咀嚼期)

 

 歯科が大きく関係するのはこのステージで、歯牙・咬合機能の喪失、舌の障害、口内炎など、口腔に問題があると咀嚼障害が生じ、食塊形成が困難となります。さらに老年期では加齢に伴う唾液分泌量の減少、認知症の方においては薬剤性の唾液分泌量の増減が生じやすく、食塊形成に支障を来します。パーキンソン病などでは唾液が増加することにより食塊形成が困難になることもあります。

 食塊形成には舌の動きや下顎自体の動きも大きく関与しており、それらの運動障害でも食塊形成が困難になります。

 私自身は摂食嚥下障害においては案外重要なステージだと考えているのですが、何故か老人医療の現場では軽んじられています。

 

3.口腔期

 

 舌の動きに問題があると、奥へと食べ物を運ぶのが困難になります。通常飲み込もうとする際には、舌は口蓋(口の天井の部分)にぐいっと上がって接触しているのです。うまく舌を挙上できないと、下に述べている咽頭期にも問題が生じてきます。

 

4.咽頭期

 

 口腔期で舌は口蓋にくっつきますが、飲み込む際には舌の下方(のどぼとけの上の方)にある舌骨という骨が舌の動きとともに舌骨上筋群により上に引っ張られ、舌骨の挙上とともに舌骨下筋群により喉頭(喉の部分)も上に挙上されます。その動きに伴い、食べ物が通過する時に喉頭蓋というフタが閉じて、気管の入り口に入らないように防ぐわけです。このフタの動きが悪くなると、いわゆる誤嚥(食べ物などが気管に入ってしまい、むせたりすること)を生じてしまいます。

 また、上に述べた鼻へと通じる部分の閉鎖が不良だと、食べ物や飲み物が鼻へ逆流し、食事の際に鼻からこぼれる、という可能性もあります。

 

5.食道期

 

 食道には食道括約筋という筋肉があり、これが胃に入ったものの逆流を防ぎますが、その閉鎖が不完全であると、逆流性食道炎を生じたり、逆流したものが気管の入り口から入って肺炎の原因にもなります。その他腫瘍や炎症など器質的な障害にて通過障害が生じることもあります。

 

 上に述べた障害はほんの一例です。各々のステージで様々な原因により障害が生じます。

 

 

 

 誤嚥とは、通常食道へ流れるはずの食べ物や飲み物が、誤って気管・肺へと入り込んでしまうことを言います。上に挙げたように、嚥下時の各ステージで障害があると、誤嚥が生じやすくなります。病態として、前咽頭期型誤嚥、喉頭挙上期型誤嚥、喉頭下降期型誤嚥、混合期型誤嚥、嚥下運動不全型誤嚥に分別されます。

 また、寝ている間など気づかない間に唾液などが肺へと流入することを、不顕性誤嚥(microaspiration)と言います(イギリスでは通常の食事時に生じる微小な誤嚥も不顕性誤嚥と呼んでいるようです)。別項にも書きましたが、私は認知症の方や臥床状態が続いている方には高い確率で不顕性誤嚥は生じているものと考えています。

 

 嚥下障害が存在すれば、誤嚥の可能性は非常に高くなります。すると、誤嚥が原因となって生じる肺炎、誤嚥性肺炎が生じやすくなります。

 誤嚥性肺炎の発症のため、嚥下食を経て、経口摂取(口から食べる)をやめ、経管栄養(静脈栄養など)に切り替えるとはよくあることだと思います。ここで気を付けたいのは、口腔の清掃状態はどうだったのかと言うことです。

 食物誤嚥以前に、口腔清掃が適切に行われていないことと不顕性誤嚥が重なって肺炎が生じていたのかもしれません。嚥下食や経管栄養にすぐに移行してしまうと、口腔や咽頭の廃用症候群をもたらし、逆に肺炎を生じやすい環境になりやすくなってしまいます。そのためにも、誤嚥性肺炎が発症した際には、まず口腔内をよく観察し、そこに原因がないかを探ることが先決です(次項も参照)。

 

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